FDEで見積作成を効率化するなら、AIによる「要望の整理」と、単価表を参照した「金額の計算」を分けることが出発点です。メールから仕様や数量の候補を取り出し、確定した商品・価格・計算ルールで下書きを作り、担当者が承認して送る。この流れを設計すると、自動化する範囲と人が判断する範囲を具体的に決められます。
本記事では、86研究所が考える見積業務の設計例を、図解と実際に動く小さな計算デモの画面で解説します。掲載する商品・金額は架空です。顧客への導入実績や効果測定結果を示すものではありません。
FDEは見積業務のどこを支援するのか
FDE(Forward Deployed Engineer)は、顧客の現場に入り、業務上の課題を実装・運用につなげる役割です。見積業務なら「AIで見積書を作る」という依頼を、受付、要件確認、商品選定、価格参照、計算、承認、送付に分解します。役割の全体像はFDEの基本解説もご覧ください。
たとえば、毎回時間がかかる原因がメールの読み取りなのか、価格表の探し直しなのか、上長の承認待ちなのかで、必要な仕組みは変わります。最初に現状の手順と所要時間を確かめ、どの工程を改善するかを決めます。
図解:要望整理・価格参照・計算・承認の4段階

Anthropicは、あらかじめ決めた処理経路を進むワークフローと、AIが動的に進め方を選ぶエージェントを区別し、必要を満たす単純な構成から始める考え方を示しています。見積業務でも、この考えを参考に、決まった計算や確認を処理手順として定義できます。出典:Anthropic「Building effective agents」。
以下は、その考え方を見積業務に当てはめた86研究所の設計案です。
| 工程 | 任せる処理 | 止めて確認する条件 |
|---|---|---|
| 要望の整理 | AIが商品候補・数量・希望納期を抽出し、元の文章を併記 | 数量なし、単位不明、複数の解釈がある |
| 価格の参照 | 承認済みの商品IDと適用条件で単価表を検索 | 該当なし、候補が複数、適用期間外 |
| 金額の算出 | 数量・単価・登録済みの計算ルールで算出 | 数量範囲外、値引き権限外、必要条件なし |
| 承認と送付 | 担当者が確認し、承認された版を送付対象にする | 承認後に仕様・金額・送付先が変更された |
AIに価格を推測させないために決める3項目
1.商品名と商品IDを分ける
顧客のメールにある呼び名と、社内の商品名が一致するとは限りません。AIが候補を挙げても、複数の商品が該当する場合は確認待ちにします。「たぶんこの商品」で価格まで確定すると、その後の計算が正しくても見積内容は誤ったものになります。
2.数量と単位をセットにする
「3箱」と「3個」は別の条件です。数量だけを取り出すのではなく、単位、入り数、最低注文数も整理します。小数を許す作業時間と、整数だけを扱う商品の違いも、入力項目ごとに定義します。空欄を自動で1として扱うような補完は、業務上の合意がない限り行わない設計にします。
3.どの単価表を使ったか残す
適用日、取引先別の条件、改定前後の価格、値引き権限などを確認できるようにします。過去の見積書は参考にはなりますが、今回も適用できるとは限りません。参照した単価表の版と適用条件を、見積の記録にひも付けると確認しやすくなります。
税・送料・値引き・端数処理がある場合は、それぞれの扱いを社内の担当者と確定し、計算処理に実装します。AIの自由な文章出力を、そのまま確定金額として利用する構成は避けます。
実画面:数量を変更すると小計が変わる計算デモ
この記事のために、架空の「デモ用作業パック」を使った画面を作成し、ブラウザー上で動作を確認しました。単価は固定の12,000円です。数量を3にすると、小計は36,000円になります。

このデモは、1〜99の整数だけを数量として受け付ける簡単な計算画面です。AIによるメール解析、実際の単価表への接続、税・送料・値引きの計算、承認処理、顧客への送付は実装していません。画面の「承認待ち」は表示例です。
確認した動作は、数量2で24,000円、数量3で36,000円、数量0で「数量を確認してください」と表示されることです。このように、小さな処理でも正常な入力と止めるべき入力を分けて確認します。
本番導入前に確認したい見積のテストケース
- 情報不足:数量や仕様がないとき、確認事項を表示して処理を止められるか。
- 商品候補の競合:似た名前の商品が複数あるとき、勝手に確定しないか。
- 価格改定:旧版と新版があるとき、条件に合う価格を参照できるか。
- 計算の境界:空欄、0、負数、上限超過、許可されない小数を検出できるか。
- 承認後の変更:数量・価格・宛先が変わった場合、再承認が必要になるか。
- 再実行:同じ依頼を処理し直しても、見積や送付が重複しないか。
AIの抽出処理を組み込んだ後は、実際の業務で使用許可を得た例や匿名化した例を使い、入力文から何が抽出されるべきかを確認します。モデルや指示文の変更後にも同じ例で比較する方法は、AI運用の回帰テストで解説しています。
導入は1種類の見積から始め、確認時間も測る
最初の対象は、商品と計算ルールが整理されていて、繰り返し発生する見積が候補になります。自由度の高い特注案件まで一度に含めると、入力条件や承認経路が増えるため、先に扱う範囲を明確にします。
評価するときは、下書きができるまでの時間だけでなく、担当者の確認時間、修正箇所、差し戻し、誤った商品・価格の件数も記録します。速く作成できても、確認負担が増えていれば設計を見直す必要があります。費用との比較はFDEの費用とROIの考え方も参考になります。
顧客に送る直前の確認者、例外案件の戻し先、停止時の手作業も決めておきます。詳しくはAI自動化で人に戻す設計をご覧ください。
よくある質問
Excelの見積書を残したまま始められますか?
現行の書式や運用を確認したうえで、必要な項目の整理や転記から始める方法があります。使っている環境、ファイルの保存場所、数式、権限によって連携方法が変わるため、現在の見積書と単価表を確認して対象範囲を決めます。
AIだけで見積金額を確定してよいですか?
本記事では、AIを要望の整理に使い、価格参照と金額計算を定義済みの処理に分ける構成を提案しています。特別価格や不明な条件は担当者へ戻し、送付前に承認する運用から始めます。
86研究所にはどこから相談できますか?
「問い合わせから見積までに時間がかかる」「単価表が複数あり確認が大変」といった業務の状態から相談できます。86研究所のFDE伴走支援では、業務整理からAI活用の設計・実装・運用改善を支援しています。具体的な見積システムへの対応範囲は、利用環境や要件を確認して個別に決めます。
まずは、現在の手順、月の見積件数、特に手間のかかる工程を整理し、AI活用の相談・診断をご利用ください。
執筆:86研究所|公開日:2026年10月7日。図解・画面:86研究所制作。本文中のフローと数値は説明用の設計例です。